アメリカ留学報告 その6
2023/12/14
目黒 敬久
こんにちは。前回に引き続き、早期推薦、アメリカ留学の模様をお届けします。今日は、以前訪れたカリフォルニア州アナハイムの「ディズニーランド」を紹介します。
目次
ディズニーランドの歴史
アナハイムのディズニーランドは、世界で初めて創られたディズニーランドです。
この場所は、昔、広大なオレンジ畑でした。そんな格安の土地を購入し、巨大なテーマパークへと変貌させたのが、ディズニーランドの生みの親、ウォルト・ディズニーです。1955年7月17日のオープン日を皮切りに、フロリダ、東京へとディズニーランドは進出していきました。今や世界6箇所に存在するディズニーランドは、すべてここ、アナハイムのディズニーランドをベースに作られています。
オープン日は決して順調なものではありませんでした。アニメーション事業もある中、大急ぎで作られたディズニーランドは、開園当日、欠陥だらけだったそうです。建設が間に合わず未完成のアトラクションが多数あり、なんとか間に合ったアトラクションも、故障が多発しました。そして、暑さで地面のアスファルトが溶けだし、多くの来園者の足を襲いました。
ただ、開園初日のウォルトのスピーチは、歴史に残るものとなっています。
Disneyland is your land. Here age relives fond memories of the past – and here youth may savor the challenge and promise of the future.
ウォルト・ディズニー
ディズニーランドはあなたの場所です。大人が懐かしい過去を振り返り、若者が未来への挑戦と約束を見つけるでしょう。
ウォルト・ディズニーの言葉で、もう一つ有名なものがあります。
Disneyland will never be completed. It will continue to grow as long as there is imagination left in the world.
ウォルト・ディズニー
ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り、進化し続けるだろう。
この言葉通り、ウォルト・ディズニーはディズニーランドの改善を進めました。大急ぎで未完成のアトラクションの建設を進め、加えて、さらなる新アトラクションの構想・建設も積極的に行いました。その先に、今のディズニーランドの姿があると言えます。
ディズニーランドの成功は、遊園地の概念を覆したとも言えます。ディズニーランドができる以前、遊園地というのは、あくまで「お子様向けの場所」であり、とても大人が楽しめるような場所ではありませんでした。
パーク内で行われていた、ウォルト・ディズニー・カンパニー100周年記念展示で、その証拠を見つけることができました。
ウォルト・ディズニー・カンパニー100周年記念展示の展示品
It came about when my daughters were very young and Saturday was always Daddy’s day – So we’d start out and try to go someplace_ I’d sit while they rode the merry-go-round -sit on a bench, you know, eating peanuts – I felt that there should be something built, some kind of amusement enterprise, where the parents and the children could have fun together. So that’s how Disneyland started.
ウォルト・ディズニー
私の娘が幼い時、土曜はいつもお父さんの日だった。私たちはどこか、子供がメリーゴーランドで遊んでいる間も、ずっと座ってピーナッツでも食べて待っているような場所に連れて行かなければならない。私はそのとき、どこか、大人と子供が一緒に楽しめるような遊園地を作らなければならないと感じた。こうしてディズニーが出来上がった。
ディズニーランドのテクノロジー
私はディズニーが、世界有数のテクノロジーカンパニーだと思います。特に世界各地のディズニーパーク・アトラクションを開発するウォルト・ディズニー・イマジニアリングが持つテクノロジー、そしてアイディアは、世界中の人々を魅了してきました。ここでは、その代表例であるオーディオアニマトロニクスと、ライドシステムについて紹介します。
オーディオアニマトロニクス
オーディオアニマトロニクスとは、ディズニーのアトラクションで頻繁に見かける、音に合わせて動く人型(或いは動物型)のロボットのことです。ウォルト・ディズニーが設立した会社である、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングが、独自に開発しています。
アドベンチャーランドにある魅惑のチキルームが、ディズニーが初めてこのオーディオアニマトロニクスを採用したアトラクションです。複数羽の小鳥のオーディオアニマトロニクスが、様々な楽曲を歌う、シアタータイプのアトラクションです。
当初ディズニーは、実際のカラフルな鳥たちがいる、レストランを計画していましたが、衛生上の観点で計画が見直しになります。それを克服して作られたのが、この機械仕掛けの鳥が合唱を繰り広げるアトラクション、魅惑のチキルームです。機械仕掛けのため、衛生上の心配がなく、また、自由にプログラムによって操作することができます。
驚くべきことに、このアトラクションのオープン日は、今から約60年前の1963年、東京オリンピックの直前です。当時はまだこれらの鳥を操るのに、巨大なコンピュータが必要でした。このアトラクションで培われた「オーディオアニマトロニクス」という技術は、その後のディズニーの歴史を変えたといっても過言ではありません。
今日では、様々なアトラクションでこのオーディオアニマトロニクスを見ることができます。アトラクション、ミレニアムファルコン:スマグラーズランに設置されているボンドー・オナカーというキャラクターのオーディオアニマトロニクスは、A1000というディズニーで最も新しい世代のアニマトロニクスです。
プレショーにてアトラクションの説明をしてくれるのですが、本物と見違えるほどのクオリティで、隣にいた友達二人は、人間が演じているものと勘違いしていました(笑)。
また、カリフォルニアアドベンチャーのスパイダーマンのショーでは、これより更に進んだアニマトロニクス、スタントロニクスを見ることができます。このロボットはゴムの力で空に向かって発射され、まるで本物の人間、さらに言えばスパイダーマンのようなパフォーマンスを見せます。
残念ながら、私が訪れた日は、システムトラブルにより見ることができませんでしたが、プロトタイプである棒状のロボットから、大量のデータを収集し、改良に改良を重ねた、この空を飛ぶ人型ロボット(スタントロニクス)は、魅惑のチキルームから始まるアニマトロニクスの一つの集大成といえるでしょう。
ライドシステム-ホーンテッドマンション
ディズニーのアトラクションで用いられているライドシステムも興味深いものです。
ホーンテッドマンションという、お化け屋敷タイプのアトラクションでは、オムニムーバーと呼ばれるライドシステムが採用されており、まるで「流れ作業のように」、ゲストを運ぶことができます。すべてのライドは下部で連結されており、アトラクション内を環状にゆっくりと移動します。
ゲストは、乗り物と同スピードの動く歩道で移動しながら、安全にライドへ乗車することができます。また、乗り物を回転させることで、見せたいシーンの方向に、強制的にゲストの視点を移動できるため、使い勝手もよいです。
一方で、この方式の最も致命的な欠点は、全てが繋がっているために、一台のみを止めることができないという点です。例えば車いすの方がライドを楽しもうとすると、一時的に、すべてのライドを止めて、乗り降りしてもらう必要があります。
ライドシステム-スターウォーズ:ライズオブレジスタンス
スターウォーズ:ライズオブレジスタンスは、2019年にオープンした最新アトラクションで、8人乗りのトラックレスライドです。トラックレスライドとは、地面に物理的な軌道がなく、各々のライドが独立して動くライドのことです。進行方向が予測不能のため、ゲストの「驚き」を創り出せるほか、乗るライドによって、違った体験を提供できるという特徴があります。
2000年に、東京ディズニーランドの「プーさんのハニーハント」というアトラクションに初めて導入されて以降、世界中のディズニーパークで用いられています。このライドシステムは、すべてのライドにコンピュータやセンサーを搭載し、リアルタイムで位置を計測する他、地面に特殊な磁気を埋め込むことで、実現しています。
ライドシステム-ガーディアンズオブギャラクシー・ミッションブレイクアウト
ガーディアンズオブギャラクシー・ミッションブレイクアウトは、東京ディズニーシーではおなじみの「タワー・オブ・テラー」をリニューアルしたアトラクションで、フリーフォールタイプのライドです。建築基準法の関係で、建物の高さは東京ディズニーシーとほぼ同じ60mとなっています。
各落下コースに2つの乗降口を連結し、2台の車両を交換することで、落下するライドを入れ替えることができ、プラットホームでの乗降や安全確認の時間を無駄にしない作りになっています。
ライドシステム-ディズニーランド・モノレール
実は、アメリカで最初のモノレールは、ここ、ディズニーランドに建設されました。それがこのディズニーランド・モノレールです。パークのオープンからまだ間もない頃、モノレールを次世代の輸送システムととらえたウォルト・ディズニーは、ディズニー独自でモノレールを開発し、パーク内へ設置することを決定。こうして1959年に、アメリカで最初のモノレールが誕生しました。
実現しなかった実験都市、EPCOT(Experimental Prototype Community of Tomorrow)にも、輸送手段としてモノレールが計画されていたことを考えると、ディズニーの本気度が伺えます。東京ディズニーランドにもモノレールが設置されているが、それと異なるのは、アトラクションの一つとして設置された点です。それくらいに、当時はまだモノレールが近未来的で珍しいものだったのでしょう。
ライドシステム-ミレニアムファルコン:スマグラーズラン
ミレニアムファルコン:スマグラーズランは、ミレニアムファルコン号のコックピットに乗り込み、宇宙空間で敵を銃撃する、フライトシミュレータータイプのアトラクションです。東京ディズニーランドにも設置されているスターツアーズとの違いは、一ライドの定員が6名であり、ゲスト自身によってライドを操縦できる点です。驚くべきは、コックピット(ライド)への入り口がたった1か所しかないにもかかわらず、5分という非常に長い体験時間を持っていることです。
コックピット(ライド)の定員が6名なことを考えると、これでは回転率が非常に悪い。そこでディズニーは、まったく新しい手法で、入り口の数を削減しつつ、5分という体験時間を確保しています。複数台のシミュレーターをターンテーブル上に設置し、乗車、下車するタイミングで、ドアの前に移動させています。
ミレニアムファルコン号の唯一無二性を維持するための工夫が、このアトラクションには施されています。
ディズニーランドの演出技法
ディズニーランドでは、最先端のテクノロジーだけではなく、ユニークな演出技法が、パークの至る所に用いられています。ここでは、ニューオリンズ・スクエアと、ホーンテッドマンションに絞って、その演出技法を紹介します。
ニューオリンズ・スクエア
ニューオリンズ・スクエアは、その名の通り、ルイジアナ州ニューオリンズの街並みを再現したエリアで、フランスやスペインから影響を受けた、特徴的な外観の建築を見ることができます。
ここで用いられているのが、強化遠近法というものです。実は、ニューオリンズ・スクエアの街並みは、1階よりも2階のほうが小さく作られているのです。これによって、建物を実物よりも高く見せることが可能になっています。
この技法は、ディズニーの他の各所で使われており、眠れる森の美女の城やメインストリートUSA、マッターホルンボブスレーも、上部に行くほど縮尺が小さくなっています。
ディズニーが完璧なリアルにこだわらず、「人からどう見えるか」に焦点を当てているのは、ディズニーの本業が映画会社であり、「カメラからどう見えるか」を常に意識していたこととも関係があるのでしょう。
ホーンテッドマンション
ライドシステムでも紹介したホーンテッドマンションは、演出技法の宝庫といっても過言ではありません。
建物に入ってすぐ、プレショートとして、「天井が伸びる部屋」に案内されます。しかしなぜディズニーは、演出として、「天井が伸びる部屋」を選んだのでしょうか。選んだというより、必然的にそうなったというのが正しいかもしれません。
引用元:https://onl.tw/nscqA3k
引用日:2023/12/10
ホーンテッドマンションを航空写真で上から見ると、ゲストが入る入口の建物と、実際にライドがあるメインの建物の間に、機関車が走る線路があることが分かります。そのため、ホーンテッドマンションの建設時、ゲストにいかに気づかれずに、入り口の建物から巨大なショースペースへと、「レールの下を潜り抜けて」、移動してもらうかが課題となりました。
そこで考えられたのが、先ほどの「天井が伸びる部屋」です。この部屋は実はエレベーターになっており、天井が固定された状態で、ゲストがいる床のみが下へ下がっています。
その証拠に、暗くて見えづらいのですが、「天井が伸びる部屋」と出口との境目に、通常のエレベーター同様、銀色の板と隙間があることがわかります。
ちなみに東京のホーンテッドマンションでは、線路がなく、ゲストを下に運ぶ必要がなかったため、床はそのまま、天井が上に上がっています。
ディズニーランドのリスクマネジメント
ディズニーのリスクマネジメントについても、少し触れておきます。夢の空間を壊さないために、ディズニーは様々なリスクに対して対処法を用意しています。ここでは、アトラクション「スターウォーズ:ライズオブレジスタンス」に着目して紹介します。
スターウォーズ:ライズオブレジスタンス
初めてこのアトラクションに乗った時、唯一残念だったのが、最大の見せ場、カイロ・レンに襲われるシーンがカットされていたことです。
引用元:https://onl.tw/m4U4uLP
引用日:2023/12/10
実は、カイロ・レンのオーディオアニマトロニクスは非常に高性能で複雑なため、よく故障します。しかしそのままでは、私たちゲストは硬直して音だけを発するカイロ・レンを見なければなりません。
そのためウォルト・ディズニー・イマジニアリングはここ数年、ゲストの夢を壊さないようにするため、主要アニマトロニクスの故障時に、瞬時に別の演出へと切り替えられる、いわば「プランB」を初めから用意しています。「プランB」では、カイロ・レンのアニマトロニクスの代わりに、右側の窓(モニター)でストーリーを進めます。
引用元:https://onl.tw/pi1T7eP
引用日:2023/12/120
まとめ
ディズニーランド紹介、いかがでしたでしょうか。私自身、ディズニーが大好きなこともあり、ついつい長くなってしまいました。
ただ、これらのディズニーで用いられている技術や考え方は、特に工学系の部活である電子技術研究部にとって、大変興味深く、価値のあるものだと思っています。
普段から、ただアトラクションを楽しむだけではなく、「どうやってできているのだろう?」や、「どうしてこうしたのだろう?」といった視点をもってみると、意外と面白いなにかが見つかるかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました!